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しまった。
泣いてるのを見せるつもりなんてなかったのに。
そう思って慌てて顔を背けて袖で目を拭ったから、その拍子にスコーンの入ってる袋が手から落ちた。

スコーンの入った小袋が四方八方に散らばって、中には欠けてしまった物もあった。


「、ごめんなさい」


何故か自然にそう出た。
兎に角、早く拾って早く家に入ろうという気持ちが先行したからだ。
ユンギの前から姿を消そうと。

しゃがんでスコーンを一個拾った私の右手がユンギの白い手に掴まれた。


「、ごめん」


スコーンとその手を交互に見て俯いてる私の頭に、ユンギのその声が落ちてきた。
返事が出来ないのに手も振り解けない。


「さっき…すぐ、受け取れなくて、」


ぼそぼそと話すユンギだが、周りが静かでよく聞こえる。

中途半端に開いたままのドア。
ユンギの身体がそれを止めていて、まだ散らばったままのスコーンと。
掴まれたままの右手。
ユンギの体温。


「…泣いた?」


「泣いてません」


ユンギの手を軽く振り払った。
また、意外と容易く抜けた。

散らばったスコーンを右手で素早く集めて袋に入れた。
欠けてしまったやつだけ、玄関から一歩入った所に置いて。


「、無理に押し付けようなんて思ってないんで、気使わなくていいです」


私が立ち上がるとユンギも立ち上がって、ドアがゆらゆらと不安定に揺れた。


「いや…気使ったわけじゃ」


「私もうこの部屋からいなくなるんで、最後にと思っただけなんで」


ユンギが小さく何か声を漏らしたけれど、袋の中のスコーンをガサガサと触っていたから聞こえなかった。


「じゃあ…そういう事なんで、お世話になりました」


私は欠けたスコーンみたいだ。
身体の一部が粉々に砕けてしまって、修復不可能。
今だけだと思おう。

ユンギの肩を押して玄関の外に出した。
こんな形で触るのが最後だなんて、誰かを好きになるとこんな事まであるのか。
切なくて苦しいのに、気持ちはすぐになくならないなんて。

人間って面倒な生き物。

もう恋愛なんて暫くしたくない。
だってユンギ以上の人なんか見つかりそうにないから。

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かむ(プロフ) - にゃんさん» 最後まで読んで頂きありがとうございます🥹しかも新しいのまで!何回でも読み返して下さい!笑 (4月2日 15時) (レス) id: 5dfe42fd36 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん(プロフ) - ユンギさんのお話最高でした!!最高すぎるのでもう一度読み返しに行ってきます!!(今更新中のお話もとても楽しく読んでます!私の日々の楽しみです!) (4月2日 12時) (レス) id: b48cf01a74 (このIDを非表示/違反報告)
かむ(プロフ) - u512さん» 私のペンになんて嬉し過ぎます🥲✨私もいつも終わらせたいような終わらせたくないような気持ちで書いてます!(笑)最後まで読んで頂きありがとうございます🥹 (4月1日 10時) (レス) id: fb7c0dcb39 (このIDを非表示/違反報告)
u512(プロフ) - やはり最高です‼️‼️かむさんペンになってしまいました‼️一生終わらないで欲しいと毎度思ってます‼️最強に拗らせられました‼️‼️これからも楽しみにしています🥹✨ (4月1日 9時) (レス) @page34 id: 37a21340a3 (このIDを非表示/違反報告)
かむ(プロフ) - 苺あめさん» 見てきたかのようななんて嬉しいです🥹こちらこそ読み続けて頂いてありがとうございます! (3月31日 20時) (レス) id: 03d417d136 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月27日 23時

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