行ったり来たり行き止まり

47 ページ47

出来ればもう暫くユンギには会いたくない。
合わせる顔がない。
ユンギにファンだと言った手前、それを偽って接しなければならない。

それに、こんな距離で二人が上手くいく所を見たくない。
ついこないだまで元彼女の肩を持つ様な事をしてたのに、性格が悪い。

隣に住んでてずっと会わないなんて無理な話だろうから、せめて私の気持ちが消えるまで。
ファンに戻るまでは、と思う。


「ヘッドホン、前のやつじゃん」


首に掛けてる私のそれに気付いたのはドユン、ではなくその隣にいたBTSファンの同期だ。
よく気付く、本当に。


「ユンギに貰ったやつ、合わなかったの？」


「そうなんだよね、なんか軽すぎ？て、私はもう少しこうズシッと感がないとダメみたい」


嘘をつく。
ユンギから貰ったから使いたくないだけ。
満月のオルゴールもヘッドホンも一時的に目に付かない場所に片付けてある。

最低でもこの気持ちが落ち着くまでは見るに耐えない。
本当は私のヘッドホンより比べ物にならないくらい、ユンギから貰ったヘッドホンが良い。

だから音質が劣るのを我慢して曲を聞いているのだ。
でもユンギの歌は聞けなくて、珍しく過去のプレイリストを遡る。


「A」


デスクでプレイリストをスクロールしていると、自分の椅子に座ったドユンが呼んだ。


「明日か明後日の夜、Aの家行っても大丈夫？」


あ、忘れてた。
ドユンには申し訳ないが、ご無沙汰の恋愛感情を現役アイドルに対して抱いてしまった事で全く頭から抜け落ちていた。
相談の件。

とは言え忘れてた！とは言えるはずもなく


「、うん、どっちでも！あ、明日が良くない？明日早退勤の日だから」


携帯を裏返しにして繕った返事をした。
にしてもよく早退勤の日を思い出せた。

この会社には月に一回十五時で退勤する日がある、それが偶然にも明日だという事。
今の今まで忘れてたのに。

ドユンは私の取り繕いに気付かないまま'じゃあ明日で'と快諾した。
ドユンの相談をすっかり忘れていたのに、頭の中はユンギの事ばかりて尚更ごめんと思った。

48→←46

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す